【本の感想】アガサ・クリスティー 『死との約束』 高橋豊訳

アガサ・クリスティー 『死との約束』 高橋豊訳、早川書房クリスティー文庫電子書籍版)、2012年発行を読みました。

原題は『Appointment with Death』です。

☆☆

ナイルに死す』に続く、名探偵エルキュール・ポアロシリーズの十六作目です。ローマン・ホリデーのように感じる話です。

ローマン・ホリデーのような

作中にローマン・ホリデーという言葉が出てきます。意味は「他人を苦しめて得られる娯楽」です。

そう言った人物に対してポアロは、「エルキュール・ポアロがくだらない探偵ごっこをして遊ぶために、ある家族の個人生活をめちゃめちゃにひっかき回そうとしていると?」と、言うのですがそう読み取れても仕方ないような印象を受けました。

理由はいくつかあります。被害者のおばあさんはサディストで独裁者です。その権力で家族を従わせおり、端から見ても異様に感じられる様子が描かれています。そのため、亡くなった理由はどうであれ、残った家族は誰も困りません。むしろ幸せになることが容易に分かります。つまり、余計なことをポアロがしているように感じます。

事件の追及は、責任者として「きちょうめんな男」と自称するカーバリ大佐、「人間が寿命のこないうちに死ぬということは、感服できない」というジェラール博士、そしてポアロの三人の会話から動き出します。

それぞれ三人の根底には是認できないことがあり、事件の追及が始まります。しかし、最初はかなり軽い感じで野次馬的な言い方をしており、ひどく無責任な感じがします。被害者家族の置かれた環境を思うと、たとえポアロが「わたしは決して人殺しを是認しませんよ」と、言っていてもどこかむなしく聞こえます。

なお、事件解決の最後の場では、一人一人に疑いをかけて晴らすということを繰り返しています。これが冗長で、なにやらいたぶっているようにも感じられました。

会話の隙間にある真実

「この事件でも、あなたたちはわたしに嘘をいいましたが、知らずしらずにほんとうの事も話してくれたのです」と終盤にポアロが語ります。話してくれた内容から並べられた事実と時系列、そしてその矛盾が起きたのは何故か、その人物は何を考えてその嘘と言ったのか。

これらを語っていくシーンはポアロの真骨頂なのですが、なんとも残念な感じです。

相手側の事情と証言のお粗末さ、歯ごたえのなさなどが原因なのか、冗長でいたぶっている感があります。読み返すと、「ああ、あの時のそれがそうなるのか」という面白さにはなります。

しかし、今回は前半のおばあさんの印象の強さが目立ち、後半は小粒な感じになっているからか、すっきりとしません。被害者が悪人であり、容疑者が小粒だと、強者のポアロが一方的になぶっている感じがあります。

途中、冗談と感じられるところもあるのですが、悪趣味な感じがします。

他の物語との関係

ひらいたトランプ』つながりで旅行していることが分かります。『ABC殺人事件』の現場近くにいた人物が登場します。どちらもフレーバー程度のつながりです。

他にも、『オリエント急行の殺人』の話が出てきます。物語では語られなかった事件後の陪審の話が出てきます。真相は関係者しか分からないはずなのですが、人の口に戸は立てられぬという言葉のとおりに世界は動いたのでしょうか。

さいごに

冒頭の殺人を予告するようなやりとりや、前半のおばあさんの印象が強いです。そのため、前半は面白いのですが、後半はそうではありません。

さいごの探偵の見せ場にしても、やり過ぎ感があります。スマートで紳士的なポアロを感じられませんでした。

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