【本の感想】アガサ・クリスティー 『カーテン ―ポアロ最後の事件―』 田口俊樹訳

アガサ・クリスティー 『カーテン ―ポアロ最後の事件―』 田口俊樹訳、早川書房クリスティー文庫電子書籍版)、2012年発行を読みました。

原題は『Curtain: Poirot’s Last Case』です。

☆☆☆☆☆

象は忘れない』に続く、名探偵エルキュール・ポアロシリーズの三十三作目にして最終作です。最後の幕引きは重く苦いです。

二人とも老人

ヘイスティングズの登場は『もの言えぬ証人』以来の久しぶりの登場です。犬と楽しそうにしていたヘイスティングズもポアロと同じく老人となり、妻は死去し、息子と娘がいる状態です。そんなヘイスティングズとポアロが出会ったスタイルズ荘が本作の舞台です。『スタイルズ荘の怪事件』と違って、スタイルズ荘も様変わりしており、ゲストハウスになっています。

懐かしさがある反面、老いの描写は強烈です。第二章で描写されるポアロの姿は、今までのシリーズのように老いたことをユーモアに変えていません。それでも灰色の脳細胞は健在なのですが、ヘイスティングズの目線で語られる旧友の変わり果てた姿というのは胸を打ちます。

変わらない友情

それでも友情とそれをこえたものは変わりません。最初の手紙では四の五の言わずに来るように言っていて、物語の途中では犯行などを巡っての言い合いになり、最後はポアロがヘイスティングズに語って物語も締めくくります。

ポアロはやっぱりポアロだし、ヘイスティングズはやっぱりヘイスティングズです。今までとの違いは、ポアロと出会ってからの話が重く苦くなるところです。この苦さは途中薄れますが、最後の最後で強烈な印象を残します。

真犯人X

ポアロには既に誰か分かっていますが事情があって動けません。ヘイスティングズは例によって犯人を特定できずにポアロとはすれ違います。

犯人は誰か、その方法はどういうものかは分かります。はっきりとは明示されませんが、心理的に人の心の中にある嫌なことを増幅させて行動させるやり方ですから、読めば自ずと気づかされます。

法律的には裁くことは出来ず、ヘイスティングズとその娘までも実行犯に仕立て上げようと心の隙間に入り込んでくる手口は恐ろしいです。

過去作でも似たような犯人はいましたが、真犯人Xは最も悪質な犯人だと思います。読み返すと、真犯人Xのさりげなく入り込んでくる手口は実に恐ろしいです。

さいごに

ポアロがそう言っているのだから仕方ないかもしれません。しかし、最後の幕引きで失ったものは大きすぎます。いつものようなポアロとヘイスティングズのようでありながら、いつものようでありません。

そのため、今までのような解決後の良い余韻はありません。ただただ重い余韻が読後に残ります。ポアロからすれば最悪を回避できたということなのでしょうが、別の見方からすれば回避は出来ていないからだと思います。これはポアロシリーズを読み続けており、なんだかんだとポアロに思い入れがあればあるほど大きく重くなっていくでしょう。

決してハッピーエンドとは言えませんが、シリーズ最終作にふさわしいとも言えます。ポアロはポアロの信念を曲げなかったのですから。

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