【本の感想】アガサ・クリスティー 『もの言えぬ証人』 加島祥造訳

アガサ・クリスティー 『もの言えぬ証人』 加島祥造訳、早川書房クリスティー文庫電子書籍版)、2012年発行を読みました。

原題は『Dumb Withness』です。

☆☆☆

ひらいたトランプ』に続く、名探偵エルキュール・ポアロシリーズの十四作目です。どこか楽しんでいる感のあるポアロの行動と、みんながみんなお互いの悪口を言い合う様が印象的です。

ポアロの行動

探偵として活躍するのは当然として、情報を探る方法として伝記作家と名乗ったり、家を探している客だったり、悪いこともするやつだと匂わせたりと、今までの名探偵っぷりとはどこか違っています。ヘイスティングズとのやりとりも、この演技を楽しんでいるようにも思えます。

亡くなった依頼人の仕事をするわけですが、メリットの無いことを自分の正義ゆえに行うポアロの姿はそれはそれで怖いです。

とはいえ、結末は依頼人が最も気にしていたことは守っています。そういう意味ではポアロはポアロです。

お互いの悪口を言い合う容疑者たち

容疑者は残念な人ばかりです。動機は全員シンプルです。遺産で何をするかは様々ですが、そうした人たちに命を狙われた依頼人が哀れでなりません。

容疑者たちは誰も彼も小さく、浅はかな人ばかりで、皆が皆、悪口を言い合ってばかりです。そのため、物語の中盤にヘイスティングズの台詞の通りすべてが漠然としています。

そういうものとして犯人を特定するゲームとして読めば面白いでしょう。私は漠然さとしたやりとりの長さに面白さよりも退屈さを感じました。

突然の犯人連呼

そんな中盤に突然、印象だけでは危険なので事実をもとにしないといけないと、ポアロが述懐するのですが、今までを取り扱った事件の人物名を連呼します。

犯人が分かったからといって、全てが台無しになるのではありませんし、その時に覚えているかは定かではありませんが、『スタイルズ荘の怪事件』、『アクロイド殺し』、『青列車の秘密』、『雲をつかむ死』が未読なら本書は読まない方がいいでしょう。

もの言えぬ証人

題名の『もの言えぬ証人』にある証人は、犬のように思えますが、本当のところは亡くなった依頼人ではないかと思います。犬がその場にいた、知っていたという描写はないからです。

それにしても依頼人のおばあさんが哀れです。依頼の手紙から伝わる立場と考え方からくる悩みに哀れさが凝縮されており、なんとも可哀想だと感じてしまいました。

さいごに

依頼人のおばあさんのことや結末を思うと清涼感の足りません。なんともいえない読後感でした。

一方で、前半のポアロのふざけた感じや、ヘイスティングズと犬のやりとりがいい味を出しています。事件そっちのけで犬と戯れるヘイスティングズの様子や、犬の心情を人語にしているヘイスティングズのお茶目なところは、実に微笑ましく楽しいです。

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