【本の感想】アガサ・クリスティー 『五匹の子豚』 山本やよい訳

アガサ・クリスティー 『五匹の子豚』 山本やよい訳、早川書房クリスティー文庫電子書籍版)、2012年発行を読みました。

原題は『Five Little Pigs』です。

☆☆☆

白昼の悪魔』に続く、名探偵エルキュール・ポアロシリーズの二十一作目です。人によって異なる見方から十六年前の矛盾を突き止めていく様が面白いです。

十六年前の話

十六年前の出来事をもう一度、調べ直すのですが、その依頼の仕方が上手です。若い女性がポアロのやる気を出させています。以下、引用します。

「あなたのお噂を耳にしています。これまでの業績を。どんなふうに事件を解決なさったかを。あなたが興味をお持ちなのは、犯罪の心理的な面。そうですよね? それなら、年月がたったからといって、変わるものではありませんでしょ。物的証拠は消えていきます――吸殻も、足跡も、倒れた草の葉も。いまとなってはもう、見ることができません。でも、事件関係の事実を残らず調べることはできますし、当時の関係者と話をすることも、たぶんできるでしょう――みなさん、いまもご存命ですもの。そのあとは――さきほどおっしゃったように、椅子にもたれて、お考えになればいい。そうすれば、事件の真相がおわかりになるはずです」

ここまで心くすぐられる言葉を言われたポアロが依頼を断るわけがありません。分かっている、上手な依頼です。ポアロも「マドモアゼル、光栄です!あなたの信頼にお応えしましょう」と、立ち上がり片手で口髭をなでてから返事をしています。

様々な意見

面白いのがポアロが五人の関係者に話を聞きに行くだけでなく、手記を書いてくれるよう依頼をするところです。これにより、事件当時の姿が明らかになります。

全てが口からと手記で明らかになったときに違和感を覚えます。そして、既に犯罪人として裁かれた彼女を無罪であることを確信できます。

五回、同じような手記を読むことは一見、退屈なように思います。しかし、事実と感情が交じり、複数の手記と照らし合わせると、抜けている事実もあり、これが意図的なのか、十六年前のことなのか分からないまま読み進めると、退屈ではありません。

タイトルの『五匹の子豚』は作中でポアロがふと思いついたマザー・グースの一節です。それが事件に劇的に関連するわけではなく、フレーバー要素にすぎません。おしゃれなのでしょうが、わくわく感はありません。

さいごに

飽きずに読ませます。ラストシーンの対比で犯人の虚しさを強調しているのが印象的でした。

五人の目線から描かれる人物像は全て正解であり間違いでもあり、そこからそれぞれの心理を読み解いて犯人で無いことを当て、なぜそういう手記を書くのかをあかしていく過程で人間模様が浮かび上がってきて面白いです。

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