アガサ・クリスティー 『愛国殺人』 加島祥造訳、早川書房(クリスティー文庫電子書籍版)、2012年発行を読みました。
原題は『One, Two, Buckle My Shoe』です。
☆☆
『杉の柩』に続く、名探偵エルキュール・ポアロシリーズの十九作目です。コミカルな冒頭とポアロの主張、ポジションを楽しむの物語です。
歯医者の前ではみな同じ
冒頭の歯医者の話は面白いです。患者の多くが歯医者に行くことを嫌がる描写があり、ポアロも例外ではありません。その嫌がり方や、治療中のポアロの様は、歯医者の前ではみな同じなのだと感じさせる面白い所です。ちなみに、治療台の上で具合を聞かれたポアロはこんな感じです。
まったくいい具合です、といったポアロの声は墓場から出てきたようだった。
治療中に、
モーリイ氏はたしかに優秀な歯医者にちがいない、確かにそのとおり。だがロンドンには、他にもいい歯医者はいる。このエルキュール・ポアロは広い世界にただ一人である。
と思ったところで格好がつきません。なんとも滑稽です。
左翼と謀略
そんな滑稽な話は中盤から変わってきます。「どうせ彼は進歩のためには邪魔者なんだ」というような左翼の発言や、国家の謀略を感じさせる描写があります。これが物語を混乱させます。よく言えば手の込んだ話といえるかもしれませんが、ただただわかりずらかったです。
ポアロも途中で「老い」、「私にはわからないことだらけ」と言ってますし、ジャップは怪奇探偵大衆小説のような状況に「気がちがいそうだ!」という始末です。
そういう物語は読んでいてつまらないです。
ポアロの主張とポジション
ポアロの主張とポジションの話が出てきます。過去作でもなぜ事件解決に向かうのかという話で語られていることと同じです。
それは人の命の重さに関する話です。ネタバレになっている『愛国殺人』というタイトルのとおり、今回は愛国のためにそれは許されるのかというやりとりになっています。
さいごに
序盤はコミカルで面白いです。最後の最後にも小さな驚きと笑いがあります。しかし、中盤の展開で全てが台無しです。
ジャップの言う「怪奇探偵大衆小説」が私の肌にあわないのか、証言者の分かりにくい発言や、妙に複雑に感じる展開なのか、区別のつきにくい二人の男性、二人の女性のせいか分かりません。
ていねいに読み進めると連鎖が見えてくるとも思ったのですが、見えたところで釈然とせず、なんとももやっとした読後感でした。
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