【本の感想】アガサ・クリスティー 『パーカー・パイン登場』 乾信一郎訳

アガサ・クリスティー 『パーカー・パイン登場』 乾信一郎訳、早川書房クリスティー文庫電子書籍版)、2012年発行を読みました。

原題は『Parker Pyne Investigates』です。

☆☆☆

パーカー・パイン氏が登場する連作短編です。前半のロンドンでの活躍は仕掛けもあって面白く、後半の旅先での活躍はそれほどではありません。

中年夫人の事件

依頼人は若い女性に夢中になっている旦那に困った中年夫人です。

統計で分類できると言い切るパーカー・パイン氏や、解決のための費用をかけた仕組みが面白いです。

どのような仕組みかというと、今回はロマンスです。

札つきのジゴロにも、興味深い著しい良心の痕跡が認められる

レベルの内容です。依頼内容を聞いて、舞台と配役を決め、個人広告の

あなたは幸せ? でないならパーカー・パイン氏に相談を。

の言葉通り、幸せにする手腕は見事です。

退屈している軍人の事件

依頼人は最近、東アフリカから帰ってきた少佐です。

生活が単調退屈なのでなんとかして欲しいということで、パーカー・パイン氏はベタベタな設定のアドベンチャーを用意します。

そのベタな設定は、偶然美女を助けるところからはじまり秘密の地図を知らされたところで敵に捕らわれ、命を脅かされるがどこまでもタフな男として活躍することで、最後はハッピーエンドになるというものです。

このベタな設定を書いたのはパーカー・パイン氏のスタッフの一人であるオリヴァ夫人です。ポアロシリーズでは『ひらいたトランプ』で登場したオリヴァ夫人です。実はオリヴァ夫人のオフィスはパーカー・パイン氏のオフィスの上にあることが分かります。

事件後に今回の依頼に関係した男女それぞれのコメントが面白いです。どういうものかというと、男は間接的な価値を感じ、女は偶然だと思っています。

そうしてパーカー・パイン氏は表題の軍人と、軍人とは別に依頼をした女性を二人してオリヴァ夫人脚本の舞台に上げ、夢と希望を与えて幸せにします。

オリヴァ夫人の存在や終わった後にそれぞれが何を思っているかなどの後日談含めて全員幸せになっていて面白いです。

困りはてた婦人の事件

依頼内容は盗んだ指輪をばれないように持ち主に返して欲しいというものです。

とある仕掛けで依頼をこなしたようにみせて実は……というのが面白いところです。一枚上手のパーカー・パイン氏が楽しめます。

ある女性の手口や考えがバレバレな話をして種を明かすところが面白いです。さらにそのやり取りでパーカー・パイン氏のプロ意識が分かりますし、得意の統計を盛り込んだ警告がなされたりと、ちょっと変わった勝利宣言をするパーカー・パイン氏が魅力的です。

よく読むと最初の会話でおかしなところがあります。パーカー・パイン氏はそのおかしなところを受け流しながら突っ込んでさらに聞き込んでいます。

そういう油断ならない慎重なパーカー・パイン氏も面白いです。

不満な夫の事件

依頼人は妻から離婚を迫られて困っている夫です。

原因は夫が9年間取りつづけた態度にあると結論づけたパーカー・パイン氏の戦術が思わぬ結果になるというオチが面白いです。笑える失敗談です。

ここで登場するのは妊婦の女王です。彼女がなかなか苦労させられます。曰く、依頼人は妻に取り付かれているといわしめるレベルだからです。そのため全力を尽くすため魅力をさらけ出し過ぎるのですが、その魅力が劇薬過ぎる結果になって事務所で修羅場になってしまいます。

演技のはずが勘違いした男に心底疲れ、目の前で男女の修羅場が繰り広げられてしまうのですからもう笑うしかないです。

サラリーマンの事件

依頼人は日常を堅実に過ごしていたサラリーマンです。依頼人は小説のような危険な冒険をすることになります。

面白いのが単純な依頼のこなし方では無いということです。実は本当に危険な運び屋の仕事をしているのですが、本人はそのことに気づいていないからです。

そうして一人の依頼人は満足し、サラリーマンの依頼人も日常から離れた小説のような体験をして日常に戻っていきます。

面白い脚色で、悪人以外みんな満足するいい話です。特に最後の一文が素晴らしい。

前の話で妖婦だったパーカー・パイン氏のスタッフであるマドレーヌも登場します。ある役をこなすのですが、最後に正体が明らかになります。「どうもたいへんなおちぶれようである!」とわざわざ書かれているところで笑ってしまいます。

今回小道具と設定は、貴重な荷物、秘密の指示、怪しい男、助けを求める美女、高価な宝石、王族からの感謝、勲章などなどです。

演出としてはありがちかつこってりしています。サラリーマンは日常を離れ、冒険を楽しみ、日常のありがたみを感じ、誇れるものをもって日常に帰って行くのだから幸せだと思います。

大金持ちの婦人の事件

依頼人は金の使い道に困っている婦人です。始めから金持ちというわけでは無く、農家出身で暮らしは辛かったがせっせと働いて金持ちになっています。最初は楽しかった贅沢にも慣れてしまい、今は楽しみがありません。つまり、何かを失ってしまったわけです。

パーカー・パイン氏が用意したのはかなり大がかりな仕掛けです。幸せとはどういう状態なのかを自分自身に置き換えて考えてみたくなります。いい話です。

あなたは欲しいものをすべて手に入れましたか?

旅行中に女性から相談された話です。

ミステリです。最後は人生相談かカウンセリングかと思う内容です。

パーカー・パイン氏のすることはアドバイスのみのため、パーカー・パイン氏の話として読むには彼らしさが足りていません。

本当に楽しみたいのは

あなたを苦しめているやつらはわたしが始末をつけます。

と言ったことの行動と結果なのですが、具体的に語ったり行動はしません。残念な終わり方です。

バグダッドの門

これもパーカー・パイン氏である必要のない話です。ヒントとなるキーワードはたくさん出てくるので、組み合わせていくと犯人と動機が分かります。ミステリークイズです。

シーラーズにある家

これもミステリクイズの類です。話の中で核となるのは身分による思い出の違いです。

統計的な話もありますが、それよりも答えに近いのは思い出話の内容です。これもパーカー・パイン氏である必要のない話なので物足りないです。

高価な真珠

これもミステリクイズの類です。オチは苦笑いのするもので、世間はお金で世知辛いと思ってしまいます。

これもパーカー・パイン氏である必要のない話です。

ナイル河の殺人

口うるさい婦人は文句ばかり言っていていつもいらいらしている金持ちです。毒殺を疑ってパーカー・パイン氏に相談をします。

ミステリなら当然殺されそうな彼女は殺されてしまいます。

証拠過剰気味の中、パーカー・パイン氏の推理はどのようなものかというのが面白い所なのですが、これもパーカー・パイン氏である必要のない話です。

デルファイの神託

そういえば前の話でそう言っていたなと、オチで気づいて笑ってしまいました。連作の最後だからできる話です。

でもそれはパーカー・パイン氏に求めてる面白さではないかな。

最後に

前半のロンドンと後半の旅行で面白さが違います。

序盤の統計的なところの言い切りや大仰な舞台装置で依頼人を幸せにするところに面白さを感じたのですが、後半は単なるミステリになっています。そのため、前半に感じたパーカー・パイン氏らしさがありません。それはそれで前半を上回る魅力があるかというとそれもありません。

前半だけなら面白い小説です。

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