アガサ・クリスティー 『邪悪の家』 真崎義博訳、早川書房(クリスティー文庫電子書籍版)、2012年発行を読みました。
原題は『Peril at End House』です。
☆☆
『青列車の秘密』に続く、名探偵エルキュール・ポアロシリーズの六作目です。引退したくてもできないポアロが事件に振り回されながらも事件を解決します。ポアロらしからぬポアロをどう見るかで面白さは変わります。
いつの事件か
作中でヘイスティングズが前作の『青列車の秘密』や『アクロイド殺し』に触れて、立ち会えなかったことを悔しがっているシーンがあります。そのため、今回の事件はその二つよりも後の事件なのでしょう。
ポアロは引退し損ねたわけですが、一度は引退をとも言えるので、今回の事件はその復帰戦になります。
再びヘイスティングズとコンビを組む今回の事件では復帰戦らしい、振り回されるポアロを見ることが出来ます。
苦戦するポアロ
何度も殺されかけているのにどこか面白がっているニック嬢だけでなく、周りの人たちはどこか信用できません。そこでポアロも惑わされてしまいます。
「はっきり、正直に言うよ、ヘイスティングズ、いまの私は、きみの表現を使えば五里霧中なんだ。この一見の背後にひそむ犯行理由がかすかにでも見えてくるまでは、まったく闇の中なんだよ。」
実際、事件の全体像に必要なパーツが欠けています。それもこれも不親切なマドモアゼルのせいです。
不利な状況であったり、パーツが欠けていたり、自分を責めてうめいたり、敗北感が服を着ているようになったりと、様々なポアロを見ることができます。
それでも最後は情報が欠けていて辻褄の合わないところがしっかりとかみ合います。ポアロの灰色の脳細胞とヘイスティングズの思わぬ言葉がヒントになる安定の展開です。
さいごに
ではそれが物語として面白いかというそうではありません。走りながら考えるような感じで読ませますし、ラストの演出が大げさな喜劇には驚きもあります。とはいえ、右往左往する精彩の欠いたポアロにはあまり魅力を感じることは無かったです。
とはいえ、そんなポアロをどう見るかで面白さが変わると思います。引退し損ねた名探偵の復帰戦、名探偵のリハビリだと思うとまた違った良さがあるかもしれません。
私は快刀乱麻に活躍する紳士なポアロが好きなので、今回はなんとも残念でした。
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